「俺は美味いものしか食わん。美味くて甘いものであれば最高だ」
「甘いものばっかり食べてたら糖尿になるよ。現代病だよ。生活習慣病」
「セイカツシュウカンビョー」
「そのとおり」
常葉がちょっとだけ笑った。気に入ったのかもう一度「セイカツシュウカンビョー」と何かの呪文みたいに呟きながら、ゆっくりと立ち上がる。
左手も添えた手のひらの中には、ふよふよ浮かんだおじさんの“夢”。
「さあ千世。覚えていろよ。お前はまたひとつ知ったのだ。努力だけではどうにもならないものがある。その一方で、かすかな可能性さえ見えなかったようなものが、些細なきっかけで大きく道開くこともある。まずは行かなければわからない。道は途切れているのか、続いているか。あの男は、歩みを止めず進み続けた。そうして道を見つけたのだ」
これからはもう大丈夫だ。常葉が、何かに向かって言った。
「あの男は確かに、自らの夢を叶えていくだろう」
常葉が立ち上がって、ユイちゃんのときみたいに、淡い光になったおじさんの“願い”を空に送った。
「千世、行き詰っても構わない。行かなければ、詰まりもできない」
まだ明るいのに、流れ星みたいになって、その光は空の中に消えていった。