今日は調理部の部活がある日だ。それを知っていたから、放課後に、という紗弥との約束は部活が終わったあとだと思っていたのだが、なぜだか部活が始まるのと同時に調理室に呼び出され、わたしは三角巾にエプロン姿の調理部員たちと共にテーブルを囲んでいる状態である。


「さて今日の議題は、昨日メールで連絡したとおり、たこ焼き器を使って作るおやつについてです」


調理部は1年生から3年生までいるけれど、運動部と違い上下関係は厳しくなく、みんな仲良く和気あいあいとやっていると聞いた。

だけど今の状況は和気あいあいとは程遠く、空気はぴりぴりとしてみんな恐ろしく真剣な表情だ。

司会進行役らしい紗弥がホワイトボードに議題を書き出すと、調理部員たちはほんの僅しんとしたあと、一斉に口を開きはじめる。


「たこ焼き器なら……ベビーカステラみたいなのがポピュラーだとまず思ったけど」

「わたし家でソーセージ入れてアメリカンドッグ作ったことあるよ」

「そのままたこ焼きにアレンジ加えるのもいいよね。もちチーズとか」

「イタリアン風にするのは?」

「生地にポテトを使えないかな。ポテトチーズ食べたいなあ」

「生地を工夫するなら米粉とかそば粉で作るのもありかも」

「あんこを使うなら餡の種類も変えられるよね。生地もそれに合わせて……」


次々に出される案を、部外者のわたしはひとりぽかんと口を開けながら聞いていた。紗弥は有能な書記官よろしくひとつたりとも漏らすことなくホワイトボードへ書き込んでいく。

昨日すでに内容は連絡してあったとのことだから、部員たちは事前に考えて来ていたのだろう。ただ話し合いの中で出てきたアイディアも多くあるようだ。こういうのは、料理が苦手なわたしには到底思いもつかない。

そしてボードが片面いっぱいになったところで(ほとんど時間はかからなかった)紗弥はマジックのキャップを閉めた。そして言う。


「じゃ、やってみよう!」


可愛い掛け声と共に一斉に各調理台へ散る調理部員たちを、わたしは当然あほ面のままで見送るしかない。しばらくしていい匂いがどこからともなく立ち込めてきたところでようやくハッと我に返り、てきぱき調理を始める部員たちの邪魔にならないようにティーバッグで全員分の紅茶を淹れる仕事を真剣にこなした。