おじさんのお店は商店街の一角にあるたこ焼き屋さんだ。正直なところ、わたしはよくこの道を通るけれどこんなところにたこ焼き屋さんがあるとは今初めて知った。
お店は、よくあるような正面がカウンターになっているタイプで食事をするスペースなどはないらしい。
始めてからまだ日は浅いのか建物自体は結構キレイだ。この雰囲気なら悪くない印象だと思うけど、なぜだか妙に近寄りがたい気がするのはなんでなんだろう。
ご近所の人に調査してみたら、夫婦でやっている店とのこと。ただ表に出るのはほとんどが旦那さんのほうで(この旦那さんが恐らく神社に来たおじさんだ)、奥さんは買い出しやら店まわりの掃除やら、裏方の作業をやっていることが多いそうだ。ちなみに奥さんはここの元商店会長の娘であるらしい。
こそっと遠目から覗いてみる。確かにさっきのおじさんがカウンターの中に立っていた。ぼうっとどこかを眺めつつ、時々手元を動かしているようにも見える……けれど、しばらく伺っていた間、お客さんはひとりも来なかった。
「…………」
おそらくこれ以上眺めていたところで何も収穫はないだろう。帰りたい気持ちを必死で押し殺して、意を決し、お店へと向かう。
「す、すみません」
声をかけると、おじさんはハッとして一瞬固まってから「い、いらっしゃいませ」とうわずった声で返事をした。なるほどよほどお客さんが珍しいらしい。お店に近寄りがたいのは、たぶんこのおじさんの負のオーラのせいだ。
「あの、たこ焼き、欲しいんですけど」
カウンターにはメニュー表が置かれているけれど、たいしたことは書かれていない。何個入りが何円、とか、プラス50円でトッピング増、とか。つまるところこの店で売っているのは1種類のたこ焼きのみというわけだ。値段は文句なしむしろお手頃だ。学生でも手軽に買える設定だった。
とりあえず6個入りを1パック頼んでみた。おじさんはその場で焼きたてを用意してくれたけども、出来あがるまでやけに時間がかかったのが気になったがもちろん黙って(なるべくカウンター内を見ないようにして)待っていた。