はた迷惑な1日だった。わけわからないことに必死になって、体中がヘロヘロだ。
でも、ひとつ。
今日のことで、ちょっと思ったことがあるとすれば。
『ありがとう』
そう言われたこと。ユイちゃんの、笑った顔。
嬉しいと思うよりも驚いたのが先だった。それくらいわたしは、普段、心からあの言葉を言われることがなかったんだと気づいた。
あのときは驚きすぎて、どうにか笑顔を作ることで精一杯だったけど。今思い出すと、今日一日の苦労も全部「まあいっか」って思えるくらいに、大きい一言だったなと思う。
本当に、些細なことだけど。
たぶん、すごく、わたしは嬉しかったんだろう。
汚れたパーカーの裾を、ぎゅっと握りしめる。
「……まあ、わたしにはなんの利益もなかった今日だけど、たぶん、今日のことはずっと覚えてると思う」
「そうか。良いことだ」
「うん。あと、わたし神様に間違われた」
「なんだと。千世ごときを神と? 信じられん」
「ごときとか言うな」
常葉に怒りながらも、さっきのことを思い出してぷすすと笑った。
もう二度とやりたくないと思ってはいるけど、悪い1日ではなかったことも確かだ。
きっとそのうち、何年か経てば、笑えちゃうような思い出になっているんだろう。
たとえば、いつかこの神社の前を通るたびに思い出すような、些細でくだらない、大事な思い出。
「だが千世。あまりのんびりはしていられないぞ」
「ん、なにが?」
「俺がお前に与えてやれる時間だ。無限にあるわけではない」
突然常葉が言い出したことに、なんのことかと首を傾げた。常葉は横顔だけを向けたまま、無表情でどこかをじっと見ているだけ。
だけどそこでハッとした。わたしは慌てておでこに手を当てる。