まっすぐ、自分の行く道、か。きっと、紗弥や大和の心にも、その道がはっきりとあるんだろう。

今いる場所から、どこへ向かって歩いて行けばいいのかちゃんとわかっている。

だけどわたしには、見当たらない道。


「この先だって、見つけられるとも思えないけど」


ぼそりと言うと、「なにがだ?」と常葉が訊いてきた。伸ばしたローファーの先に落ちた、透明のしずくをわたしは見ていた。


「自分で決めた行く道ってやつだよ。常葉はなんか、わたしに夢見つけさせようとしてるみたいだけど、そんなもの、わたし、どうやって探せばいいのか検討もつかない」


小さな頃にはきっとあった。

アニメの魔法を使える強いヒロインになりたいだとか、宇宙人に会いたいだとか、ティラノサウルスを飼いたいだとか。

でも、そのうちそういう夢はなくなった。捨てた訳じゃなく、本当にいつの間にか綺麗さっぱり消えていた。

ちょっとずついろんなことがわかるようになってきたからだと思う。世の中のこと、自分のこと。


ちょっと人より算数ができたのは小学生まで。ちょっと人より足が速かったのは中学生まで。

自分が思っていた以上に、自分にはなんの取り柄もなかった。ふつうだった。劇的なことは起きなかった。努力しても、成功者が言うような結果は自分には訪れなかった。


この世界に生きる70億人。わたしはただの、70億分の1。

数字でひとまとめにされちゃうようなその他大勢のひとつだ。

わたしの痛みも悩みも、他の人には分かち合えやしないのに、他の人とは違う、たったひとりの自分には、どうしたってなれないんだ。

なれる気が、しないんだ。