「千世。お前がいてよかった。俺はとても楽しかった。お前は阿呆でまぬけだが、誰より心根の良いやつだ。きっとこれから、もっと素敵な人になる」
「……知ってるよそんなのっ……」
「そうだな。なあ千世」
常葉の親指がぐいっとわたしのまぶたを拭った。すごく痛かったんだけど、おかげで少し晴れた視界に、めいっぱい、きらきらと光るヒカリ。
「俺は千世に会えてよかった。ありがとう。お前がいてくれて、俺はとても、うれしかったんだ」
息を止めていた。目を逸らさずに見ていた。
どうせすぐぼやけちゃうのはわかっていたから、できるだけ見てようって決めた。
銀色の髪。琥珀色の目。とても綺麗な、わたしの神様。
また涙が出たのを合図に、ぎゅっと首にはりついた。
柔らかい髪の毛がまぶたにあたって、少し甘い匂いがした。
ああ、ちゃんと抱きつけるのになあ。温度だってわかるし、匂いも声も全部わかるのに。
確かに今ここにいるのに。
なんで。消えちゃうの。
「……常葉」
「なんだ」
「消えないで」
「今日は素直だな」
「いつもだよ」
「そうだったかな」
「……ねえ」
「なんだ」
「常葉の願いごとは何?」