「近くにいたつもりなのに、いざっていうとき駆け寄ってあげられないんだもん。本当はああいうかっこいいこと、わたしが言ってあげられたらよかったのに」

「だったらこれからはお前がやればいい」


じっと見ていた琥珀の瞳が、ゆっくり瞬きをした。


「俺のしたことを、これからは千世がやれ。言っていただろう、共に歩むと」

「でも……ほんとにできるかわかんないよ。あんなの言ってみただけで、ちゃんとわたしにやれるのかな」

「できるさ。千世はそういう奴だ」


常葉が小さく笑う。

そういう奴ってどういう奴か全然わかんないけど、そう言えば常葉っていつもわたしに変な期待をしてるよな。

その期待にまともに応えたことなんてロクになかった気がするけど、なんでまだ、わたしにできるなんてことを言ってくれるんだろう。


「大和の心なんてわかんないけど、それでもできる?」

「心など、誰も分かち合えはしないよ。心は自分だけのもの。喜びも痛みも自分だけのものなのだ。

いいか千世。だから、誰かが笑ったときは自分も笑え。涙を流したときは泣け。歩みを止めれば立ち止まって肩を組み、歩き出したら、手をつなげ。

そうして進んでいけばいい。もしも大和がまた道を見失えば、お前がそうして、隣にいてやれ」


簡単に言うけど、たぶんそれってそんなに楽なことじゃない。

だから、絶対にできる、なんて、自信を持って言えないけど。

たまにはその期待に、応えるつもりで答えてみてもいい気がして。


「わかった」

「ああ」

「がんばってみる」

「ああ。きっとできる」


雨はまだやまない。夜まで降り続ける。

でも明日の朝にはやむらしい。残念だ。昼のうちにやんでくれれば、きっと虹が、見えたのに。