「明日香ごめん、『赤い人』見たかもしれない」


私と同じようにかがんで、自分の身体を抱くようにして震えている。


「そ、そこにいるの?」


「うん、真っ赤な手が見えた」


留美子が「赤い人」の姿を見たという事は、もう振り返る事ができないという事だけど。


でも、留美子が見たのは本当に「赤い人」なのだろうか?


私が見た「赤い人」は歌を唄っていた。


良くわからない……でも、不気味な歌。


その歌が聞こえない。


だとすると、他の誰かなのかもしれない。


カウンターに背を向けてかがんでいた私は、ゆっくりと身体の向きを変えて、カウンターから廊下の様子を伺った。


「明日香、何してるの!」


留美子が出したその声に、階段から、玄関に向かって歩いていた人物が、こちらに顔を向けたのだ。


「ひっ!!」


その形相に……声を上げた私は、一瞬それが誰かわからなかった。


そして……。








ドンッ!と、カウンターを叩き、私達を見ていたのは……。




上半身が血塗れになった翔太だった。


「お、お前ら、何でこんな所にいるんだよ!! 俺を囮にして……理科室でも実習室でもないだろ! ここは!!」