黒く、長い髪の間からのぞく目を、私は忘れていない。


その人物が私達の運命を弄び、狂わせたのだ。


黒い影が、廊下の奥から徐々にこちらに向かって歩いてきている。


憎しみの対象がそこにいる事で、手も足も震え始めた。


皆が「赤い人」のぬいぐるみを奪うためにここから離れて、まだ15分も経っていないのに、もう一晩過ごしたような気さえする。


それくらい、時間が経つのが遅く感じていた。


ホールの入り口に足を踏み入れた人影。


私が廊下の奥に、その姿を見てから数秒しか経過していないのに、何分も経っているようで。


ゆっくりとこちらに向かって来るその人物を見すえるために、正面に立ち、ポケットから携帯電話を取り出して、それを開いた。


携帯電話のカメラの照明なら、顔を見るくらいできるから。


撮影モードに切り替えて、照明のボタンを押した私は、それをゆっくりとその人物に向けた。


足元から、徐々にその姿が露になっていく。


学校指定の上履きに、紺色のソックス。


長い髪から、女性だという事はわかる。


スカートにブレザーと、携帯電話の光が照らし出し、その顔を浮かび上がらせた時……私はわけがわからなくなった。






「嘘……でしょ? なんであんたがここにいるの!?」