「もう少し待ってよ! こっちも必死でやってるんだから!」
留美子が叫んだその声が、高広に最後の踏ん張りを生ませた。
もう少し……その言葉は、今の高広にとっては、何よりも難しい注文だったに違いない。
「赤い人」は身体を震わせて、こちらを背にして立っているのに対し、自分は右のふくらはぎを負傷している。
さっきまでとは違い、いきり立って襲ってこない事が、かえって恐ろしさをかもし出していた。
その間に、壁に身体を寄せながら立ち上がり、「赤い人」の次の行動に備える。
とは言え、脚を怪我している高広にそんな余裕はもうなかった。
いくら攻撃が直線的でも、この脚ではそれを避ける事もできない。
それがわかっていたからこそ、背後にいるふたりに後の事を任せるしかないという結論を導き出した。
「ふたりとも……少しも持たないかもしれねぇ」
ハハッと笑い、高広は右脚を庇いつつ「赤い人」に近づいた。
この時、すでに死を覚悟していたのかもしれない。
自分が死んでも、後ろにいるふたりが遥の頭部を取り出して、階下で待つ明日香に渡してくれれば、この長い「昨日」から抜け出す事ができると信じて。
せめて動きを止めようと、「赤い人」の肩をつかもうとした時だった。
留美子が叫んだその声が、高広に最後の踏ん張りを生ませた。
もう少し……その言葉は、今の高広にとっては、何よりも難しい注文だったに違いない。
「赤い人」は身体を震わせて、こちらを背にして立っているのに対し、自分は右のふくらはぎを負傷している。
さっきまでとは違い、いきり立って襲ってこない事が、かえって恐ろしさをかもし出していた。
その間に、壁に身体を寄せながら立ち上がり、「赤い人」の次の行動に備える。
とは言え、脚を怪我している高広にそんな余裕はもうなかった。
いくら攻撃が直線的でも、この脚ではそれを避ける事もできない。
それがわかっていたからこそ、背後にいるふたりに後の事を任せるしかないという結論を導き出した。
「ふたりとも……少しも持たないかもしれねぇ」
ハハッと笑い、高広は右脚を庇いつつ「赤い人」に近づいた。
この時、すでに死を覚悟していたのかもしれない。
自分が死んでも、後ろにいるふたりが遥の頭部を取り出して、階下で待つ明日香に渡してくれれば、この長い「昨日」から抜け出す事ができると信じて。
せめて動きを止めようと、「赤い人」の肩をつかもうとした時だった。