「アアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」




ぬいぐるみの頭部を拾い上げたものの……予想以上の豹変ぶりに、翔太は一瞬、動きを止めてしまったのだ。


わずかな時間でも立ち止まってはいけない。


それはわかっていたはずなのに、後退するのが遅れた。


「う、うわああああっ!」


それは、恐怖した悲鳴か、気合いを入れたのは、翔太自身もわからない。


ただ、目の前に迫る「赤い人」から逃げなければ、間違いなく殺されるという事は理解していた。


その姿に戦慄を覚えながらも、十字路まで後退した翔太は、校舎の南側に向きを変えて走り出す。


ずっしりと重い、ぬいぐるみの頭部を右脇に抱えて。


皆には悪いけれど、この中から遥の頭を出している余裕なんてない。


そう思いながら翔太は、震えてもつれそうになる脚を、ひたすら前へと動かした。


生産棟の中を、南北と東西に貫く廊下の交差点。


こから大職員室の前までは、渡り廊下分とほんの少しだけだから、翔太が走る距離は短い。