だったら、ここで逃げるわけにはいかない……と。


皆、きっと健司を信じている。


翔太は、今にも泣き出してしまいそうな感情が胸に込み上げるのを我慢しながら、壁に背を付けて健司を待った。









「キャハハハハハハッ!」



工業棟の廊下の北側から近づいて来る「赤い人」の笑い声に、健司は恐怖を感じていなかった。


いや、感じていないと言うよりも、ほとんど身動きが取れず、それどころではなかったのだ。


今の咆哮で、泰蔵の意識が表面化し始めて、身体を乗っ取られる寸前で踏みとどまっている。


この状況で、「赤い人」からぬいぐるみを奪って、翔太に渡す事などできないかもしれないという絶望感に襲われていた。


そんな中で、迫ってくる「赤い人」のペタペタペタという小刻みな足音に、あせりを感じてしまう。


俺の邪魔をするなよ! 死んでも翔太にぬいぐるみを届けないといけないんだ!


心の中でいくら叫んでも、侵食は止まらない。


胴体から首へと、なでられてるかのように黒い感覚が上がってきていた。