そんな高広の役割は、「赤い人」を足止めする事。


その時を、目を閉じて待っていた。





その頃、工業棟に向かった健司は「赤い人」を探さずに、工業棟の廊下と生産棟の廊下が交わる、T字路の真ん中に立っていた。


もう、「赤い人」を探す余裕がない事を、健司自身よくわかっている。


身体の半分が、泰蔵に侵食されているような感覚の中、必死に自分を失わないように生産棟の方を凝視していた。


「赤い人」が釣れさえすれば良い。


背中にしがみつかれる前に、ぬいぐるみを奪って翔太に届ける。


それをするまで、泰蔵に負ける事ができないのだ。


「俺の爺さんの……兄貴なんだろ……俺の邪魔をするなよ」


都合の良い事を言っているのはわかっている。
泰蔵にとっては、自分を殺した男の孫なのだから。


それでも、そう言いたくなるほど、身体が侵食されていく事が怖かった。









「髪の毛も足もまっかっか~」








カラカラカラ……と、北側のどこかのドアが開く音と共に、その歌が健司の耳に聞こえた。


「赤い人」がどちらを向いているかわからない。


それに、皆にも知らせなければならないという思いが頭の中を駆け巡り……。