しかし、作戦を立てた当の本人は、上手くいくとは思っていなかった。


可能性は限りなくゼロに近く、健司が泰蔵になってしまえば作戦は完全に失敗する。


そんな事を考えながら、先を行く健司の背中を見すえて、翔太は廊下を歩いていた。


皆が極力死なないように作戦を考えていたのに、高広の思いつきとも言える発言でつぶされる。


翔太にとって、当然それは面白くない事だった。


この作戦だって、上手くいくはずがない。


渡り廊下の窓から射し込む、やわらかな光に包まれた翔太は、そんな事を思いながら空に浮かぶ月を見上げた。


ずっと暗い所にいたためか、優しい月の光でさえも、目が痛く感じる。


この月を見るのももう十一日目。


早く「カラダ探し」を終わらせたいという気持ちはあるのに、安全策を取ろうとする作戦は、それを遅らせているだけなのか?


そんなつもりはないのに、比べてみると高広の発言の方が、危険だが早く終わりそうだと感じている自分もいる。


生産棟に入り、工業棟へと向かう交差点を曲がった健司。


「健司、ここで待ってるからな。頼んだぞ」


「赤い人」に見つからないように、工業棟からは見えない位置で待機して、翔太は呟いた。