「赤い人」が迫る。


それも、高広に向かってまっすぐに。


私は、正面から向かってこられた事がないから、「赤い人」がどういう行動に出るのかわからない。


でも、今の高広がそれに耐えられるとは思えず、私はつかんでいた腕から手を放し、庇うように前に出た。


「理恵、高広を支えて!」


私がそう言ったと同時に、眼前の「赤い人」が私に飛びかかる。


激しい衝撃が胸部と腹部に加わり、一歩後退してしまったけど、いつの間にか背後から、腹部に回されている腕を見つめて私は理解した。


正面から「赤い人」が向かってきた場合、特別な行動はない。


しがみついて背後に回り、その後は私も知っているように歌を唄い始める。






「あ~かいふ~くをくださいな~」






よろめきながら、窓側の壁に肩をぶつけるようにして、もたれかかった。


「明日香! 大丈夫!?」


背後から理恵の声が聞こえても、振り返る事はできない。


「大丈夫だよ……早く放送室に行こう」


しがみつかれていても、壁があるなら、それを伝って歩く事ができる。