「やった。これで、後ひとつだね!」


そう言い、理恵の顔を見たけど……その表情は、恐怖に引きつっていた。


「あ、明日香……そこにいるの……誰?」


理恵が、何を言っているのかわからない。


そこにいるの?


ここには私と理恵の他には、翔太と留美子の亡骸しかないのに。


首を傾げながら振り返った私は……。


壁の角をつかむ血染めの手が、視線の先にある事に気づいた。


真っ赤な手……それが誰の物かわからないけれど、足元が滑る私にとっては、それは恐怖の対象でしかなかった。


「赤い人」にしても、健司にしても、今襲われれば、ろくに身動きが取れないまま殺されてしまう。


「り、理恵! 早く左腕を持って行って!」


「う、うん。わかった!」


これが「赤い人」なら、私は振り返って、理恵を確認する事ができない。


玄関の東側から廊下を挟んで向こう側にあるホールに行ってもらうしかないのだ。


ここまで来て、死んでしまうのかと思うと、少し悲しかった。


この後、放送室を調べなきゃならないのに、理恵ひとりだけではいつかの私みたいに、背後に「赤い人」を呼ばれてしまうだけだから。