そこを走って、東棟に戻るつもりで。


それにしても、今のは一体どういう状況だったのだろう。


高広の言葉と、「赤い人」の行動を考えると、導き出される答えはひとつだった。


「健司が『赤い人』にしがみつかれているんだ……」


きっと、教室に入る前に私達は、健司に見られたのだろう。


それしか答えが出なかった。


でも、そうだとしたら、最悪の組み合わせだ。


しがみつかれて歌を唄い終わるか、一度見て振り返れば殺される「赤い人」と、気づかれただけで殺しに来る健司。


ふたり同時に現れた時、私はなす術なく殺されてしまったから。


少なくとも高広も、「赤い人」を見てしまったわけだから、振り返る事ができなくなった。


あの絶望的な状況を、高広がどう切り抜けるのか……もしかして、死ぬつもりで私を逃がしてくれたのなら、何としてでも生徒玄関にたどりつかなければならない。


生産棟から東棟へと向かう渡り廊下に差しかかった。


ここの窓からさっきの教室は見えるけど、今見てしまったら、高広が逃がしてくれた意味がなくなる。


心苦しいけど、その方を見ないように、うつむきながら渡り廊下を走った。


その途中に落ちていた、高広の携帯電話を拾い上げポケットに入れる。