この低くうなるような歌声は、「赤い人」のものだ。
しかし、急いで移動していた私が聞いた言葉はそれだけではなかった。
「み、み、美子ちゃん。み、見つけたよ……」
それは、山岡泰蔵に取り憑かれた健司の声。
まさか、あのふたりが同時に来たの!?
でも、「赤い人」にとって健司は、私達と何も変わらないはず。
「お顔もお手てもまっかっか~」
歌が唄われ続けているという事は……。
「ハッ! 美子の子守りかよ! お前も大変だな、健司!」
そう言い放った高広は机を蹴飛ばしたのだろうか?
ガタンッ!と、激しく床に、机が叩きつけられるような音が室内に響いた。
「俺が死ぬまでに行けよ! 明日香!」
教室の後ろのドアにたどりついた時、高広がそう叫んだ。
教室を抜け出した私は、生徒玄関に向かうために生産棟の廊下を走っていた。
すぐ隣に階段はあったけど、教室の前のドアが開いていたから、追いかけられないためには遠回りだけれどそうするしかない。
渡り廊下を抜けて生産棟に入り、工業棟とは逆の、西側に向かう廊下。