「赤い人」が窓を引っかく音が、まだ聞こえる。


でも、かなり遠くから……たぶん、一番奥の教室の窓を引っかいているのだろう。


廊下にいるという事は、まだ動く事ができない。


確実に、安全だとわかるタイミングで出なければならないのだ。



「もう大丈夫だから、ありがとね」



いつまでも高広の脚の上に乗っているわけにもいかない。


私は耳元でささやいて、身体を滑らせるように、床に腰を下ろした。


「赤い人」は東棟二階の廊下にいる。


健司はまだ玄関にいるのだろうか?


動いてくれていないと、留美子達が生徒玄関を調べる事もできない。


もしもそれが続くようなら、翔太が囮になってでも健司を引き離そうとするだろうけれど。


問題は私達の方。


東棟の南端から生産棟の北端までつながっている新校舎の中で、一番長い二本の廊下のうち一本がこの教室の前の廊下なのだ。


つまり、長い廊下のどこにいても、「赤い人」に見つかってしまう可能性があるし、それを見てしまう可能性があるという事。


私達は、「赤い人」が西棟に向かうか、どこかの教室に入らなければ、ここから出る事ができないのだ。