目の前にある、東棟を貫く廊下を南側に曲がると、左手に事務室、右手に職員玄関が見えるのに。


「仕方ねぇだろ、職員玄関なんて、生徒玄関からも丸見えだぞ」


高広の言うように、職員玄関からは、生徒玄関前の廊下から西棟まで見えてしまうのだ。


だから、健司がこちらに向かって来た場合、歌や足音でそれを判断して逃げなければならない。


「健司がこっちに来たら、どうするの? やっぱり二階だよね?」


「それしかねぇだろ。しっかり付いてこいよ」


そう呟き、私の手を握る高広。


その温もりに、私は安心感を覚えた。


しばらくして、健司の歌声が聞こえてきた。


東棟の方に移動するのか、それとも西棟なのか。


耳を澄ませて、声の動きを注意深く聞いていたけれど……どういうわけか、その声は玄関の前から動いていないようだった。


「健司は向こうに行ったのか?」


「まだ玄関にいる……どうして動かないんだろう」


まるで、何かを待っているかのような、そんな気さえする。


まさか私達を待ち構えているってわけじゃあないだろうけど。


健司が動きを見せなかったら、こちらも身動きが取れない。


「そういや、健司は今日も叫ばなかったよな……なんか理由があんのか?」