高広が私の身代わりになってくれたんだから、今度は私が高広の身代わりになる。


「わかったよ、逃げる準備はしておけよ」


そう呟き、うつむいてグラウンドの方に歩いていった。


「赤い人」を見ないための方法だろう。


そして……。







「高広ーーっ!! 戻って来ーーーい!!」







悲鳴にも近い翔太の声が響き渡った。


声が校舎に反響して、山びこのように何度も私の耳に聞こえる。


グラウンドまで50メートル以上はあるここからでは良くわからないけれど、月明かりで翔太の姿はかすかに見える。


しばらくして……翔太が、こちらに向かって走ってくる姿をとらえた。


これ以上見ていれば、「赤い人」を見てしまう。


私は、今歩いて来た方に向きを変えて、走る体勢を整えた。


ただ逃げればいいわけじゃない。


高広を先に行かせて、私が「赤い人」を引きつける。


そうじゃないと、高広を休ませる事はできないから。


「明日香! 来るぞ!」


背後から聞こえた翔太の声が、私の横を通過する。