移動しているその声が、突然小さくなった。


かすかに反響しているようにも聞こえる。


こっち側のデスクじゃなく、給湯室の方に入ったの?








「あかがつまったそのせなか~」







ガラガラと、ヤカンや鍋が床に落ちる音が室内に響き渡る。


今なら、ここから出て、逃げられるかもしれない。


このまま、見つかってしまうのなら……。


そう思い、ゆっくりと椅子を動かした時。







キィッ。





隠れる時は気にならなかったキャスターの音が、かすかに鳴ってしまったのだ。


その瞬間、静まり返る室内。


表皮を切り刻むような冷たい空気の中に、緊張が張り詰める。


少しでも動いてしまえば、この沈黙が破られてしまいそうで……呼吸をする事もできない。


でも……。










「わたしはつかんであかをだす~」








その沈黙を破ったのは「赤い人」だった。


歌を唄いながら、給湯室を出て、こちらに向かってきている。