こんなの、何でもない普通の事。


なのに、何が起こっても怖い。


倒れたモップを拾い上げて、ロッカーに戻そうとしたその時だった。







ポンッと、誰かが、私の右肩に手を置いた。






肩に置かれたその手に……私は恐怖した。


「赤い人」は工業棟にいるはずなのに、もうここまで来たの?


これで振り返って「赤い人」を見てしまったら……私はもう、振り返る事ができない。


でも、「赤い人」なら振り返らなくても、この状況なら殺されてしまう。





「ハァ……ハァ……あ、明日香……ここにいたのか……」





その声は、翔太のものだった。


慌てて振り返るとそこには、大量の冷や汗をかいて、恐怖に顔をゆがませている翔太の姿があったのだ。


「あ、危なかった……理恵が……理恵がいなかったら、俺……死んでた」


そう言った翔太に、私は嫌悪感を抱かずにはいられなかった。


理恵がいなかったら、俺が死んでた?




何? それ……。


「理恵が……どうなったか、翔太は知ってる?」


言葉にするだけで、怒りがこみ上げて来る。


「ああ、見た……ひどいよな……」