でも、翔太は無理だと言うから、そうなんだろう。


問題は、それをどこで調達するのか。


農業科棟に行けばあるだろうけど……それが旧校舎なのだから話にならない


「ロープは探すとしてさ、事件の事とか放送室の話を聞かせてよ。山岡泰蔵がどうして弟に殺されたのかとかさ。高広はあんまり覚えていないみたいでさ、詳しくはわからなかったんだ」


下りる方法があるのなら、私は事件の真相の方が気になる。


「高広は半分寝てたからな。健司のおばあちゃんに聞いた話だと、雄蔵は日頃から泰蔵にきつく当たっていたらしい。自分の兄貴が知的障害者で、面倒を見なければならないから、それが嫌だったんだろ」


「え? どういう事? それだけの理由で、雄蔵は泰蔵を殺したの?」


翔太の言葉だと、そうとしか思えない。


写真では、あんなに仲が良さそうだったのに。


あの笑顔は、一体何だったのか……私はますますわからなくなってしまった。


「それだけの事って言うけどさ昭和30年代の話だぞ? 閉鎖的で、障害者に対して偏見があった集落じゃあ、泰蔵を抱えているだけで相当なストレスだったはずだ。それに……雄蔵自体、気性が相当荒かったらしい」


昭和30年代……翔太の話を聞く分には、この辺りの福祉の環境が整っていたとは思えない。