「なんかよぉ、健司を殴るつもりで来たけど……あれは無理だわ」


玄関で、靴を履きながら高広が呟いた。


まあ、あんなに荒れた部屋に入れないだろうし、何もわからないと言い張る健司を殴ったとしても、何も解決しないのだから。


「高広はなんでも殴って済まそうとしすぎだよ。殴られたらムカつくよ、きっと」


そう言った私の顔を見つめる高広。


そして、口をとがらせて顔をそらした。


それを見て、私も留美子に言われた事を思い出してしまい、なんだか急に恥ずかしくなってしまう。


「はいはい、仲が良いのはわかったから。学校に戻ろうよ。ここにいても時間の無駄でしょ」


私達を押しのけて玄関のドアを開ける留美子。


その言葉に、釈然としないものを感じながらも、私は留美子に続いて家を出た。


私達が健司の家を出て、門の方に向かって歩いていて、ふと平屋の方を見てみると、庭で誰かが洗濯物を干している。


あれは……健司のおばあちゃんだろうか?


洗濯物を干しては腰を伸ばしを繰り返して、時おりトントンと腰を叩いている。


人の家に入っておいて、気づかないフリをして出ていくのも気が引けるし……。