「……してどうしてあかくなる~」
かすかに聞こえたその声が……ゆっくりとこちらに近づいて来ていた。
「う、歌だよ……どうしよう……」
オロオロする私の肩に手を置いて、携帯電話をポケットから取り出す高広。
「任せとけって、何度か経験あるからな。こういう事は」
そう言った高広は、今の私には頼もしく思えた。
何度か経験がある……それはつまり、こんな状況を切り抜けて来たという事だ。
圏外で使えもいない携帯電話で、一体何をしようというのだろうか?
準備が終わったみたいで、トイレの入り口に向かう高広。
「お手てをちぎってあかくする~」
私も高広の後ろで、その歌を聞いていた。
まだ近くではないけど……確実にこちらに近づいている。
理恵じゃないけど、この声の響き方から、階段の上から聞こえていると私は思う。
高広は、こんな状況で何をするのだろう。
「いいか、俺がお前の肩を叩いたら、『赤い人』を見ないようにして走れよ」