理恵が後ろにいるから、本当に通路の方を向いているかはわからない。


でも、これで90度なら平気だという事がわかった。


後は、「赤い人」から逃げれば良いだけ。


でも、この状況じゃあ、それが一番難しく思えた。


私はその場で立ち上がり、通路に近づいた。


「赤い人」が、こちらに来るような気配はない。


それに、あの歌が、さっきから聞こえないのだ。


「いなくなったのかな……」


誰に言ったわけでもない。自分に言い聞かせるように呟き、そっと通路の方をのぞいた。


「えっ!?」


私の目に飛び込んで来た光景は……あまりにも衝撃的な物だった。


「け……健司?」


今日こそ、高広がしっかりと見ているはずなのに、どうしてここに健司が?


「まっかなふくになりたいな~」


あの歌の最後の一小節……。


それを唄っていたのは……目の前で立っている健司だった。


そして、健司は柵を乗り越えて、屋上の縁に立つと……そこから飛び降りたのだ。


「嘘でしょ!? 健司!」