留美子が、溜め息をつきながら椅子から立ち上がった。


図書室はここからだと、西棟の二階から行くのが一番早い。


留美子自身、ひどい事を言っていながらも、翔太がいなければ、八代先生との会話がわからなかったという事に気づいてはいるのだろう。


それに、「小野山美子」の事を調べたのも翔太なのだから。


「留美子って素直じゃないよね。心配なら心配って言えば良いのにね」



クスッと笑いながら、私にそう呟く理恵。


まあ、他人の喧嘩を、留美子があおっていただけだから、今さら引っ込みが付かなかったのだろう。


留美子も意地を張っていたのだ。


「理恵! 馬鹿な事言ってないで早く行くよ! 心配なんかしてないし」


そう言って、ドアに向かって歩き出す留美子。


私達も、クスクスと笑いながら、その後を付いていく。


やっと、留美子が翔太の事を許したようで安心した。


問題なのは、翔太よりも健司の方だ。


理恵も当然、許している様子はないし、私だって許せない。


その事は……考えたくはなかった。


図書室に向かう為に音楽室を出て、廊下をまっすぐ南側に向かった。


音楽室を出て、すぐの階段を下りても良かったけれど、そこからだと西棟の奥まで見通せてしまう。


万が一、「赤い人」が西棟に移動していたら……私達は確実にその姿を見てしまうから。