でも……まだ油断はできない。


会議室での事もあるから、「赤い人」がいなくなったと考えるのはまだ早い。


私はもう一度、立てた人差し指を口の前に置いて、ふたりの顔を見る。


理恵と留美子も、その意味がわかったのか、私に小さくうなずいた。


それから五分間は経っただろうか……。


ドアの向こうに「赤い人」がいる気配はないし、歌も聞こえてこない。


「もう、大丈夫みたいだね」


最初に口を開いたのは私。


そう呟いても、ドアが開けられる様子はない。


「はぁ……心臓に悪いよ……まったく」


崩れ落ちるように、床に腰を下ろす留美子。


「これからどうするの? 移動する? それとも、校内放送を待つ?」


理恵の言葉に、私は悩んだ。


「確実なのは、校内放送を待つ方だよね。音楽室から出て、すぐに『赤い人』に見つかるかもしれないし」


見つかってしまえば追いかけられる。


見てしまえば振り返る事ができなくなる。


特に、見てしまったら、半分死んだも同然。


後ろを見る事ができなくなるのだ。