それなら、ますますこの扉を開けるわけにはいかない。


それに……理恵が助けてと言った時に、離れようとしなかったのに……同じ言葉を口にするなんて、どういう神経をしているのだろう。


扉の向こうから、「赤い人」の歌と、健司の意味不明な奇声が聞こえる。


そんな中で……理恵が手を震わせながら、ゆっくりと扉に近づき……そして鍵をかけた。







「健司……もういいから……うるさいから死んでよ」






理恵がそう言った直後だった。


ドサッ……と、何かが落ちるような音が聞こえたのは。


今のは……健司の上半身が落ちた音?


「赤い人」が人を殺すパターンは二つある。


ひとつは振り返る事で、その時の殺し方は、「赤い人」が無邪気に虫を殺すように、潰したりちぎったり。


そしてもうひとつは、しがみ付かれて、歌が唄い終わった時。


この殺され方だと、しがみ付いた腕が締め付けられて……背中から裂けるようにして上半身と下半身が分断されてしまう。


今のドサッという音は、恐らく健司の上半身が床に落ちた音だろう。


そして、健司が死んだという事は……。


扉を挟んで、「赤い人」がいるという事。