「ま、しょせん人間のいさかいなんてそんなもんだ。戦争だって元々はたわいのないケンカから起きているんだからな」

 クロが知ったような口調で言う。

「なんでだろ」
もう一度繰り返して考えながら歩いた。山本栞とは高校生になってからの友達だ。きっかけは隣の席になったというシンプルなものだった。しかし、おしゃべりな栞とはすぐに意気投合し、それ以来親友という間柄になったのだ。

 修学旅行の前の日、確かに栞とは言い合いをした。その記憶はある。

 でも、原因を思い出そうとすると、まるでもやがかかったように見えないのだ。

「まあ会えば分かるさ」
クロが気楽な口調で空を仰ぎ見た。


 セミはまだ鳴き続けていた。