なだらかな坂を登ると、右手に小さな家が見えてくる。

「久しぶりだな、ここ」
門を開いて中に入ると、インターホンを鳴らす。

「こら。鳴らしても聞こえるわけないだろ。鳴ってるのはこっちの世界だけ」

「だからこういうのが礼儀って言うの」
文句を言いながら玄関のドアを開けようとするが、鍵がかかっているらしく開かない。

「すり抜けていけばいいだろ」

「待ってよ、それじゃ礼儀が・・・」
そう言った時にはすでにクロは扉の向こう側に消えた後だった。

 バスの時よろしく、私もすり抜けようとがんばってみたがやはりうまくいかない。結局、クロが鍵を開けてくれてなんとか中に入ることができた。

 玄関には祖母のものと思われる靴がきれいに揃えられていた。小さな頃から慣れ親しんだこの家特有の香りが鼻腔に心地良い。

「おばあちゃん?」
声をかけながら中に入ると、ベランダに腰掛けている小さな後ろ姿が目に入った。