「そっか、確かに聞こえたのにな」
そのまま洗面所に向かう。

 さすがにモデルルームだけあって、蛇口から水は出ないが鏡を見ながら髪型を整える。
 
「ずいぶん長くかかっちゃったから急がないとね」

 
「残りはあと12日だ。一週間も寝込んだからな」
鏡越しにクロがそう言った。批判するような言い方ではなかった。

「そっか・・・。ま、がんばろっと」

 あれだけ寝込んでいたのにセーラー服はシワひとつない。それどころか屋上で派手に転んだりしたのに汚れすらついていなかった。

「さ、行くぞ」
そう言って鏡からクロが消えると、もう一度自分の姿を映す。

「大丈夫、できるはず」
暗示にかけるようにつぶやくけれど、不安は増すばかりだった。