身体を固めたまま
逃げる事もなにもできず

私はのび太君の顔をジッと見るしかない。

「そのままにしてますと身体に負担がかかりますので、よかったら……その……あの、また病院に来て下さい」

そう言って
手に取っていた本をそこいら辺に戻し、汗をカーディガンの袖口で拭いていた。

「心配してました」

のび太君の声は優しかった。

「よく図書館で見かける顔だったので、先日は驚きました」

照れたように笑って
話の内容を明るくしようとしている。

いや
無理だから
性病の話は
明るくならないから。

でも
その笑顔は嬉しい。

「私の事、わかってた?」

生唾を飲みながら
やっと出た言葉がこれだった。

「はい」

静かに返事してニコニコ笑う。

自分だけが知っていると思っていたのは、間違いだったのか。

「あの、それでですね。もし、僕の所が嫌でしたら、その……僕の婚約者も隣り町で婦人科に勤めておりまして」

婚約者。

あぁ
そうか

のび太君には

静香ちゃんがいたのか。