恋愛は馬鹿がするものらしい。
だからジーンリッチは恋に落ちない、愛さない。
だって自分の遺伝子を残すときは最高の組み合わせを選ぶだろうから。
髪の色、顔の造形、頭の中身――自分好みで自分以上の。
もしも残すことを選んだら、だけれども。
まあどちらにしても事実、ジーンリッチが結婚したという話は耳にしたことがない。
もっともそれは「わたしは」という前提であって、この世界のどこかでは恋に落ちて共に暮らしている者がいるかもしれないし、いないとは言い切れない。
だけどきっとそれはとてもひっそりとしているのだろう。
ナギ・ユズリハ。わたしは今、その名前に恋をしている。
恋。いいや、これが恋というものかどうかは判断が難しい。
なぜなら恋愛というものをわたしはしたことがないからだ。
けれどもしジーンリッチが恋に落ちないのであれば、欠陥品であるわたしのこの感情は恋と呼んでも良いのかもしれない。