「っサク…ごめ…。」
無理やり涙を拭おうとした、その時。
佐倉くんの熱い手に包まれた。
ギュッと抱きしめられる、私は佐倉くんの腕の中。
「もう、簡単に男についてっちゃダメだよ。」
言い聞かせるみたいに言う佐倉くんの声が、心に小さな火を灯した。
それだけじゃない。
匂いや、鼓動や、温もりが。
抱きしめられるって、こういうことなんだ。
抱きしめられただけで温かくて、
抱きしめられただけで安心する。
私はいい歳して、そんな事も知らなかったんだ。
「芳乃さん、俺に仕事を教えてください。
それで、いつか貴女に頼ってもらえるような大人の男になりますから。」