「芳乃さん。」
「…何よ。」
白く曇る窓ガラス。
その向こうで煌めく街明かりが滲んで見える。
「いきなりキスしたこと、反省してます。すみませんでした。」
「…………。」
今さら。
謝るくらいなら最初から……なんで、キスなんか。
「少し、からかうだけのつもりでした。……俺、悔しかったんです。世の中ナメてるような自分をつかれて。」
「…………。」
「でも、怒られたとき嬉しかったりもして。
“仕事ナメんなっ!!”って、この人は本気でぶつかってくれてんだって。」
急に真面目な話をするから、酔いが次第に覚めてきたような気がしていた。
どうしてだろう。
佐倉くんの方を見れない。
「それから、ありがとうございました。
お客さん怒らせた時、俺の甘えた考えのせいなのに頭下げてくれて。すみませんでした。」
爽やかな好青年はときどき不真面目で、きっと人よりあまのじゃく。
酷く素直な佐倉くんは、何だかむず痒い。