ある程度の余裕が出てきた私とは対照的に、江古田さんの異常なほどの汗は止まることがなかった。
まるで、滝みたいだ。
「何だか…暑いですね。」
江古田さんはポツリと呟く。
それからコーヒーと共に運ばれてきていたおしぼりを手にすると、額に浮かんだ玉のような汗を拭った。
私は唖然としてしまう。
なぜずっと握り締めていたハンカチでなく、おしぼり?
よく定食屋やファミレスのお客さんでいるけど…こういうオジサン。
片手ではしっかりとハンカチを握り締めたまま、首筋の汗までもおしぼりで拭い始めた。
……嘘でしょう?
目の前で繰り広げられる江古田さんと汗の格闘シーン。
何が悲しくて、こんなものを見ているんだろうか。
しかも、おしぼり。
ハンカチでなく、おしぼりで汗を拭う男。
私は途方に暮れていた。
結局、色々な話をしたはずなのに、私が江古田さんについて覚えていたのは、
握り締めたグレーのハンカチと異常な汗掻きという事だけだった。