「夢見る芳乃ちゃんのままで、俺はいてほしいかな。」
「え?」
「いいじゃない。焦らなくても。」
「…だって。」
「心配いらないよ。
いざとなったら俺がいる。」
「…はい?」
路木さんは、ただ真っすぐに前を向いて運転していた。
月明かりに照らされた横顔が妖しいほどに綺麗だった。
「俺と、ドラマティックな恋ってやつをすればいい。」
心臓が、どくん、と跳ねた。
きっと路木さんは冗談のつもりで言ったのに。
ドキドキしている心を無理やり隠すように、私は笑った。
「も、もう!冗談やめてくださいよー!からかわないでくださいっ!」
その時、路木さんは一瞬だけ悲しそうな顔をした。
でも、それはほんの一瞬のことで、
「バレたか。思い切りからかってやろうと思ったのに。」
と言った時にはもう、いつもの路木さんだった。
だから、私も気のせいだったと思うことにして、
顔を見合わせて笑いあった。