まだ路木さんが『みかづき屋』の店長で、私が高校生でバイトをしていた、あの頃も。
路木さんは、私によく「頑張りすぎるなよ」と言ってくれた。
そうやって、私の頭を撫でてくれる。
それは照れ臭くて、でも心底嬉しかった。
初めて人に認められた気がしたから。
見えないところで我慢したり、誰にも気づいてもらえない努力を、
路木さんが認めてくれた。
あの頃の気持ちを思い出して、懐かしくなる。
本当、良い上司に恵まれたなぁ。
「路木さん。私ね、ドラマティックな恋がしたいんです。」
「ドラマティック?」
「はい。
でも、実際の現実には中々そういう恋はないから。」
「…………。」
「いつまでも夢見る自分じゃいられないってことです!」
大人になると、色々なものが見えてくる。
もう、現実から目を逸らしていられるような歳じゃない。
どこかで妥協して、どこかで諦める。
恋の神様への期待も、
王子様を待ち続ける日々にも、
もう サヨナラをしよう。