「気持ちいー!」
私は夜空へ手を伸ばした。
パールに輝く車は風を切って走る。
アルコールが入った身体に触れる風は心地良く、真上に広がる漆黒の空を見上げては解放感を味わった。
真っ赤なシートは座り心地も良くて、さすが高級車だ、とぼんやり思う。
大きな橋を渡りながら見える、
街が煌めく景色がロマンチックで私は見惚れていた。
「何か楽しいですねー!私、路木さんとならどこへでも行ける気がします。」
浮かれ気分で言ったが、路木さんは何も言わなかった。
でも、私も特に気にしない。
今夜は美味い酒が飲めて、
風が気持ち良くて、
それでいいんだ。
久しぶりに過ごす充実した夜は本当に楽しかったから。
「芳乃ちゃんってさ、分かってて言ってる?」
「はい?」
路木さんの言葉の意味が分からず、私はきょとんとしてしまう。
「…いや、何でもない。」
口を閉ざした路木さんの表情からは何も読み取れなかった。
「頑張りすぎるなよ。仕事も恋愛も。」
そう言いながら私の頭を撫でる。
その手は大きくて、私の髪には温もりが残った。