「『こちらです』じゃなくて『こちらの商品でよろしいでしょうか?』って言えてたら、また違ったんじゃない?お客さんとしっかり会話が出来てたらね。」




佐倉くんは押し黙って俯いた。



それから、絞りだすみたいに口を開く。


「…なんか…こんなの、不公平だ。」





蛍光灯の光が、佐倉くんの黒髪に落下していた。


艶々と輝くそれが、
綺麗だな、なんて思った。



「世の中なんて不公平なことが多いの。
不公平で不平等で不条理なのよ。でも、社会ってのはそんなもんで成り立ってんの。」


「…………。」


「“お客様は神様”なんて言葉があるけど、私はね違うと思ってる。お客様はお客様、それ以上でもそれ以下でもない。
でもね、納得がいかなくても、頭にきても、謝ることは接客の基本。
クレーム一つでダメージ受けてたら、この先保たないわよ。」





男の子なのに繊細な白い肌と、色気漂う赤い唇。

憂いを帯びた横顔を見ていると、何かの映画のワンシーンのようでさえあった。




21歳かぁ。



まだまだ青い青年は、これからどんな大人になっていくんだろう。


私のように、
曖昧な世界をいつの間にか受け入れてしまう日が来るんだろうか。





なぜか分からないけど、佐倉くんにはそうなってほしくない…そんな気がした。







「…俺、ガキですね。」




そう言って、佐倉くんは顔を歪めた。