店は閉店時間を迎え、佐倉くんには締めの作業に入ってもらった。
その間、私は切りのいい所まで発注を済ませておく。
それが終わってしまうと、もう私にすることはない。
「もう終わりそう?」
声をかけると、レジの中のお金を数えていた佐倉くんは顔を上げた。
「はい、後は売上報告だけですから。」
人懐こそうな笑顔で答える。
私の中で先日の佐倉くんが一瞬過ったが、気づかなかったことにした。
いいじゃないか、もう別に。
少なくとも今日の佐倉くんは、面接で初めて会った時の好青年なのだから。
ひと足早くタイムカードを切って、帰り支度を始める。
外で降り続いている雨を思い出して、また憂うつになった。
止んでくれてたらいいのに。
その時。
騒がしい音が突然鳴り響いた。
もう有線を切ってしまった店内で、それはいやに目立つ。
そして、それが佐倉くんの携帯電話の着信音だと気づくまでに、そう時間はかからなかった。