写真を撮り終えた若菜はテーブルに戻ると、私に微笑みかける。
「絢斗にね、ダンスを習わせようと思ってるの。」
「ダンス?」
それは、突拍子もないことのように思えた。
「テレビで同じくらいの子が踊ってるの見て興味持ったみたいでね。
ダンナと二人で、
将来アイドルにでもなったらどうする?、なんて言ってんのよぉ!」
困ったような口調で言うけれど、楽しそうに見えた。
「そう、絢斗は可愛いもんねぇ。」
若菜が気づかなくて良かった。
私の心の黒々とした渦にも、曖昧な笑顔にも。
フォークを手にし、チョコレートケーキを掬おうとする。
でも、それは思った以上に繊細で柔らかい。
結局、私は上手く掬うことができなくて、
綺麗だったはずのチョコレートケーキはグシャリと崩れた。