「…こんなことが言いたかったわけじゃないの。」
私は俯いたまま、ポツリ、ポツリと言葉を絞りだす。
「…そんな、メチャクチャで訳分かんない男…誰が好きになるかって思ってた。」
私の肩を支えるように触れている佐倉くんの手、その温度さえ。
「サヨナラをするの。」
私は、きっと一生覚えていられると思うから。
「…サヨナラ?」
だから、きっと。
「言い訳ばかりの自分に、サヨナラをするの。」
少し遠くなっても想いは届く、そう信じてる。
見上げると、佐倉くんの瞳は真っすぐに私を捉えていた。
私が言いたかったことは、たったひとつだ。
「佐倉くん。
私、佐倉くんのことが好――…!!」
言いかけた言葉は、その赤い唇に塞がれた。
私の世界は、佐倉くんでいっぱいになる。
引き寄せられた身体は佐倉くんの腕の中に収まり、匂いや温もりに閉じ込められた。
「ん、」
瞳を閉じると、もう何も考えられなかった。
抵抗する気も、押し返そうとする気も始めからなく、私は佐倉くんの背中に手を回す。