『もう芳乃だって結婚適齢期でしょう?いい加減、現実考えなさい。』
母の言葉が胸に刺さる。
『菫のことだけで頭が痛いんだから、母さんに心配させないでちょうだい。』
電話を切った後、私はバルコニーに出た。
風は冷たい。
ちっぽけな電灯が中庭を浮かび上がらせている。
それはどこか不気味で、どこか寂しそうだった。
「…結婚、か。」
私だって…そりゃあ、いつかはしたい。
けど、その前に相手がいないんだもの。
恋の神様はきっと意地悪で、かなりマイペースだ。
両親の苦労を見てきたから、早く安心させてあげたいと思う。
でも、ときどき煩わしくて堪らなくなる。
人の気持ちも知らないで、って。