「…あたしは、お姉が羨ましいけどな。」


「え?」


菫が言ってることが全然ピンとこない。

だって、私なんか羨ましいはずないでしょ?




「頭が良くて、お母さん、お父さん、先生に友達、皆から信頼されててさ。
あたしなんて…音大辞めたのだって周りとレベルが違いすぎて自分の限界見えちゃったからだし。
ハワイへ行ったのだって、何もかもリセットしたくて逃げ出しただけだし。結婚だって…また逃げてきちゃったし。
お姉が思ってるほどカッコ良くないよ。」


「…そんなこと…。」




妙に、しんみりとした空気が流れていた。

初めて聞く妹の本音に、私は戸惑うばかりだ。





「さぁて、と!あたしの話はいいとしてっ!」


「え?」


「お姉はいつまで逃げてるの?」


「…………。」




そんなこと、言ったって……。





「…何よ。イタリアだ、ハワイだ、オーストラリアだって!そんなに海外がいいならどこへでも行けばいいじゃない!!」


「え?」


「私なんかっ!日本から飛び出したことないっつーの!!」


「…お、姉……。」



菫が驚いた顔で、私を凝視している。



頬を生温いものが伝った。

それが涙だと気づいて、自分でも驚いてしまった。




心が張り裂けそうだ。

もう…本当バカみたいじゃん。