閉店を迎えた店でレジ締めや売上報告といった閉店業務をこなして、店を後にした。


佐倉くんは、結局閉店まで店にいて細々とした仕事をしてくれていた。



「タダ働きになっちゃうけど?」と可愛げのないことを口にする私に、
佐倉くんは「構いませんよ?」と言って笑った。





外へ出ると、冷たい空気が身体を突き刺していく。


コートのポケットに手を突っ込んで、佐倉くんと並んで凍える夜を歩いた。

いつもは憂うつになる駐車場までの道程が、今日に限っては有り難い。




「…あのさ。」


「…はい。」


「…私、路木さんのプロポーズ断ったの。」



佐倉くんは何も言わない。

だから、私は急に不安になる。


たったそれだけのことなのに、底無し沼へ突き落とされた気分だった。




「仕事好きだし、辞めたくなくて。」


「…それが、理由ですか?」


佐倉くんは急に立ち止まる。
俯いた彼の横顔は暗いせいもあってよく見えない。




「…うん。」






それだけが理由じゃない、とどうして言えなかったんだろう。





その横顔が見えなかったこと、土壇場で躊躇った自分の弱さを、
私は今、酷く後悔している。