* * *――…
伝えなくちゃ。
伝えなくちゃ、と思っていた。
自分の気持ち。
私の気持ちを。
「ずっと待たせてゴメン」とか、「優柔不断でゴメン」とか、そんな言葉ならいくらでも思いついた。
頭の中で何度もシミュレーションして、大丈夫だと言い聞かせた。
でも、分かっていた。
私はマリちゃんや菫とは、どうしたって違うのだ。
人間は、簡単には変われない。
傷つくのが怖いから理由を探して躊躇ってばかり。
だって、
十代で負う傷と、この歳になって負う傷とでは、治癒力に大きな差があると思うのだ。
十代で負う傷ならば、きっとそれから先の人生の糧にだって出来るだろうし、時の流れの中で「そんなこともあったなぁ」と思い出にだって出来るのかもしれない。
けれど、この歳になって負う傷はイタい。
だから、日々の生活や忙しさを理由に、本当はずっと避けてきた。
恋をする、ということを。
恋がしたい、恋がしたい、と言いながら、真剣に考えたことなんかなかった。
そのクセ、自分にないものを持ってる人が憎らしいほどに羨ましい。
私は恐れていた。
自分と向き合うことを。
歳を重ねるごとに、
気づかないように、見ないように、とそんな事ばかりが上手になって、逃げていたんだ。