「佐倉く――…。」



言いかけたものの、佐倉くんは何も言わずに背を向けて行ってしまう。


私の声は、ただ行き場を失って彷徨う。







考えるより先に、足が動いていた。


考える暇なんかなかった。





薄暗い、もう他の店のスタッフの姿さえなくなった広い店内。


エスカレーターは止まり、静寂に包まれて。



佐倉くんの足音と、追いかける私の足音が響く。





頭を過る、「勘違いよ」、「違うの!」。

どれも事実なのに、並べた言葉は言い訳がましく聞こえてしまう気がした。



それでも、何もしないよりはマシだと思った。






その腕を掴むと、佐倉くんはすんなり立ち止まる。



思わず拍子抜けした私だが、駆けたせいか息が上がっていて上手く言葉が出てこない。